福昌寺・飯沼康祐の 旬粥日和 ~趣を以って粥を食す~
二月
桃太郎トマトの茶粥
鬼は隠仁とも云われます。
イライラして心が鬼の時こそ、自身を観つめるチャンスです。
桃太郎は江戸時代から語り継がれる日本五大おとぎ話の一つで、男の子なら誰もが憧れ、目を輝かせながら読み聞かせてもらったことがあるでしょう。この伝説の起源となりそうな逸話は各地にありますが、岡山県吉備地方では、第七代の孝霊天皇の息子・吉備津彦命が犬飼健命ら家来を従え、その地を支配していた温羅(おんらorうら)を討った英雄として崇められています。しかし奇妙なことに、吉備津彦命を祭神とする吉備津神社では、温羅をも大切に祀っています。温州みかんや温飩などに使われる「温」の字は「穏やか」「情け深い」などを意味し、名は体を表すならば、温羅は極悪者ではなく、高度な技術を伝え、繁栄をもたらした渡来人として民から敬われる温かい存在だったのかもしれません。
昔話に登場する悪役は恐ろしい存在ではありますが、どこかに優しさ、義理人情といった良篤な一面を感じてなりません。それはどんな人でも鬼に成り得ること、そしてたとえ忙しい毎日で心が鬼になってしまったとしても、奥底の温かい仏心を忘れてはならないことを教えてくれている気がします。
静かに座り、季節の恵みをいただく。そんな当たり前のことを有り難く感じることこそが、心ゆたかな生活のはじまりなのかもしれません。