ヤフーも参戦、「サイバーお墓」 アカウント管理に法律の壁

死を迎えるための準備“終活”が定着する中、PCやインターネット利用者向けのサービスが登場し始めている。インターネット検索大手のヤフーも、終活サービス「フルライフ倶楽部」を開始。家族5人まで無料招待できるほか遺言や遺産相続についても相談できる。

「産経新聞」

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「フルライフ倶楽部」のメモリアルスペースのイメージ(Yahoo!エンディング提供)

死亡確認で有料サービス停止

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「フルライフ倶楽部」のメモリアルスペースのイメージ(Yahoo!エンディング提供)
インターネット検索大手のヤフーは2014年7月、生前に申し込めば利用者の死亡確認後に、ネット上に保存した文書や画像などを削除できる終活サービス「Yahoo! エンディング」を開始。さらに、2015年4月からはサービスをさらに拡充した「フルライフ倶楽部」を始めた。

エンディングではほかの特徴として、利用者の死亡が確認されると利用者本人が事前に登録していた最大200人の知人に「お別れメッセージ」を自動送信する。また、ヤフーの有料サービスを停止することもできる。

フルライフ倶楽部ではこれまでのエンディングに、利用者本人が家族5人まで無料招待できる機能を追加。無料招待された家族も同様のサービスを利用できる。利用者が遺言や遺産相続の方法について、生前に相談できるサービスもある。

利用者はネット上の「サイバーお墓」となる「メモリアルスペース」を残し、アクセスできる家族や知人を指定することが可能。メモリアルスペースにアクセスが許された家族や友人は、利用者の生前の画像やメッセージを閲覧できるほか、追悼文などのコメントを書き込む欄もある。

初期ネットユーザーが注目

なぜヤフーが終活サービスの充実を目指すのか。担当者は「インターネットの普及が始まって約20年。初期からの利用者にとって、人生の終わりが身近なことになり始めている」と指摘。「初期利用者の親世代にとってはさらに差し迫っている。そうした世代にとってネット利用は身近ではない可能性があり、利用者の家族も含めたサービスに広げた」という。

死亡確認は遺族からの火葬許可証の提示で行う。担当者によると、これまで故人に関するSNSやネットアカウントの削除は「複数の知人による死亡確認」などで行われており、公文書が利用されてこなかったのが実情という。ヤフーの担当者は「これまでは死亡確認の手法が簡易すぎて、利用者が生きているにもかかわらず死亡認定され、その後のアカウントの不正利用につながる危険性が高かった。ヤフーのサービスでは、そうした不正を防ぐためにも、公文書での死亡確認にこだわっている」という。

現状では、アカウント内のデータ削除が対象となっているが、利用者などからは、メールや写真などを遺族に移すことができないかという注文もある。ただ、利用者の残した文書や写真で「相続などで利用者の死後にトラブルに発展することも考えられる」(ヤフーの担当者)といい、現在、どこまでサービスが可能なのか検討中だ。

死後の「忘れられる権利」

ネット上の名誉毀損(きそん)をめぐっても、終活がクローズアップされ始めている。

「あの記述がネット上から無くならない限りは死んでも死にきれない。どうにかならないのか」

ネットに広がった情報削除について多くの相談を受けている神田知宏弁護士のもとには最近、こんな内容の相談が寄せられることが多くなったという。

神田弁護士は、「情報削除の依頼は当初、ネットユーザーの中心である30代、40代からの相談が多かったが、さらに上の年代からの依頼も増加している」と指摘する。

こうしたケースで削除依頼の対象とされるのは、過去の犯罪や不祥事に関する記述が多い。「自分の過去を子供や孫は知らない。そうした内容が死んだ後にネットで判明してしまうと、どう思われるのか。自分が死んだ後は、イメージが良いままで家族の思い出に残りたい」。こんな悩みを打ち明けてくるのだという。

ただ、この場合の終活を成就させるハードルは高いのが現状だ。昨今、話題に上ることが多い、ネット上の個人情報をめぐる「忘れられる権利」の議論にも連動するこの動き。

例えば、ヤフーはインターネットの検索結果情報の削除要請があった場合、考慮するとした基準を公表している。「プライバシー保護を優先」して削除に応じる可能性があるとされるのは、(1)削除を要請した人が未成年などの場合(2)記載された表示内容が性的画像や病歴、犯罪、いじめ被害などの場合。

一方で表現の自由を優先し削除に応じない可能性が高いのは、(1)議員や一定の役職にある公務員、企業経営者、著名人などの場合(2)前科や逮捕歴などの場合などとしているためだ。

まだまだ判例が少なく、「忘れられる権利」の概念自体が定まっていない現状では、さらなる議論の深まりが必要となりそうだ。

故人のPC解析も

これまでは、利用者本人が生前に登録・準備するための手法だ。ただ、当たり前だが死は突然やってくる。故人が生前にデジタル終活を行っていない場合、残された遺族は何ができるのか。

壊れたPCのデータ修復サービスなどを手掛けてきた「データサルベージ」(東京都港区)は2015年5月から、終活サービスに参入した。主な事業は、PCやスマートフォン、タブレットに保存してある文書や写真、アドレス帳など、故人のデータの取り出しや保存だ。

このサービスは、終活として生前に申し込み、残したい文書や写真などのデータの取捨選択を指示し自分の死後に削除したり家族にデータを移したりすることが可能なほか、遺族が利用者のPCなどを同社に持ち込み、死後にデータの取り出しを依頼できる。

同社の阿部勇人社長(36)は、仙台市出身。東日本大震災後、津波により水没した故人のPCデータの修復を多く手掛けてきており、「震災時は『あの人の写真をもう一度みたい』といった犠牲者遺族の思いが多く寄せられた」という。この経験から、終活に特化したサービスを立ち上げた。

現在、同社は遺族の依頼に応じて、故人が生前に利用していたネットのサービスやSNSのアカウントにアクセスし、残された情報の取り出しや削除を行えないか検討中という。技術的には、SNSなどの暗証番号を解析し故人のアカウント内に到達することが可能だが、不正アクセス禁止法との兼ね合いがあり、どこまで故人のアカウント解析が許されるのかは難しい問題となっているという。

ヤフーは「遺族から利用者の死後にアカウントの開示を求められたとしても、法整備が不十分なことから要望に応えることは難しい」としている。このためデータ社の阿部社長も「どこまでアカウント解析が可能なのか、弁護士と相談中」で、サービス拡充に向けた課題は多そうだ。

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