夏休みに帰省したら…介護、親とどう話す

知人の話をきっかけに 結論急がず何度も聞く

夏休みの帰省。久しぶりに親の顔を見てふと思う。「将来の介護をどうするか決めておかないと……」。とはいえ、切り出すのは難しい。「まだ元気だから」「迷惑はかけない」と話が進まないまま、その時となって戸惑うこともある。どうしたらスムーズに話ができるか、あらかじめ何を決めておけばいいか。専門家や経験者にコツを聞いた。

「あの時話していれば……」。介護情報サイト「親ケア.com」を運営する大阪市の横井孝治さん(48)は、三重県に住む両親の介護が始まった際のことを振り返る。2001年に母親が不可解な言動を繰り返すようになり入院。父親も身の回りのことが十分できない。週数回、自宅と実家を行き来する日々が続いた。

それまで実家には毎日電話しており、帰省でも異変は感じなかった。後で振り返ると「『近所の人が庭の砂利を盗んでいく』など変なことを言っていた」。それでも介護は先と考え、話し合わなかったという。

金銭的な負担も大きかった。親の通帳の場所が分からず、自分の貯金を充てた。交通費も含め支出は月数十万円ほどに。「聞きにくくても、最低限のことは確認しておくべきだった」

介護に備えて何を話し合うべきか。「近所に連絡先を伝えておいた」「財産管理の委任状を書いてもらったほうがいい」。12日、遠距離介護を支援するNPO法人パオッコ(東京・文京)に約10人が集まり、悩みやアドバイスを交わした。

パオッコによると、まず確認するのはどこで誰に介護を受けたいか。子供の元へ移らず、地元に残りたい親もいる。お盆にそろう親戚間で役割分担を決めておくことも大事。電話に出ない、など緊急時に確認してもらえる近所や知人などにあいさつし、連絡先を聞いておくことも役立つ。

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お金の問題も避けられない。貯金や年金の額、借金はないか、どんな保険に入り、処分していい資産はあるか。資金次第で施設か在宅かなど選択肢も変わる。

ただ、親子でも介護を話題にするハードルは高い。親は「迷惑をかけたくない」、子は「親の老いと向き合いたくない」と避けがちだ。パオッコの太田差恵子理事長は「友人の親が倒れた」などと知人をきっかけに切り出す方法が有効という。親戚や芸能人でもいい。「施設に入るらしい」「娘と住み始めた」と話して反応を見るだけで本人の希望を把握する参考になる。

気をつけたいのは結論を急がないこと。気を使って最初は同居の希望を話さなかったり、途中で考えが変わったりすることもある。繰り返し聞き続けることが大事だ。
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横井さんは、介護が必要になり得る親戚全員を話題にすることを勧める。高齢になるほど、親の兄弟姉妹や、自分にとっての義理の父母など介護の可能性がある人が周囲に増える。「独身の兄弟が倒れたらどうするか、など順番に話していけば抵抗感も弱まる」

帰省は認知症の兆しを確認するチャンスでもある。訪問診療の「たかせクリニック」(東京・大田)の高瀬義昌医師は(1)金が計算できない(2)季節にあった服が選べない(3)複数の作業を同時にできない――などの様子があれば可能性が高いと指摘する。注目したいのは「風呂、服、トイレ、冷蔵庫と財布の中身」(高瀬医師)。掃除されていない、夏なのに厚着、冷蔵庫に同じ食材がいくつもある、財布が小銭でいっぱいといった点は気づきやすい。

帰省中の数日間は頑張って弱った姿を見せないようにする親もいる。太田理事長は「その場は気まずくなっても心配する気持ちは通じる。電話する頻度を増やす、メール連絡を始めるなど連絡する機会を増やし、日ごろから話せる雰囲気をつくっていくことが大事」としている。

介護費用 平均は月7.7万円

公益財団法人「生命保険文化センター」の全国実態調査(2012年度)によると、過去3年間に家族や親族の介護経験がある約600人の介護費用は月平均7万7千円だった。専用ベッドの購入や住宅改造などの一時的な支出は平均91万円だった。介護期間は4~10年未満が34%と最も多く、平均すると4年9カ月だった。単純に計算すると、総額で500万円超が必要になる。

今年8月には介護保険法の改正に伴う利用者の負担増が始まり、一定の所得以上なら、利用したサービスの自己負担額が1割から2割に引き上げられる。また預貯金が単身1千万円超の場合は、特別養護老人ホームなどの施設で部屋代、食事代の補助がなくなる。元気なうちに介護資金について話し合っておく必要がさらに高まりそうだ。

(小川知世)

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[日本経済新聞夕刊2015年7月30日付]

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